むやみに実用新案権は取るべきではない?理由を解説

新しい製品やアイデアを考案した際、「アイデアを守るために実用新案権を取るべきか?」と悩む方も多いでしょう。特に中小企業や個人発明家にとっては、知的財産の保護とコストのバランスは非常に重要な問題です。
本記事では、実用新案権の概要について解説したうえで、基本的には「実用新案権を取る必要はない」という結論に至る理由を解説します。代わりにどのような対応が有効か、そしてその際に弁理士がどのようにサポートできるのかもご紹介します。
実用新案権とは?制度の概要を詳しく解説

実用新案制度は、特許制度を補完する簡易な知的財産制度として設けられたものです。特許法と異なり、あくまで「小発明」「簡易な技術的アイデア」に対して、迅速かつ低コストで一定の権利保護を与えることを目的としています。
たとえば以下のようなケースが典型です:
- 工具の微細な改良
- 家電製品の操作部の配置の工夫
- 既存部品の新しい組み合わせによる新機能
いずれも技術的工夫を含んでいるものの、特許出願するにはやや弱いアイデアに向けて、1980年代~1990年代の日本企業が積極的に利用してきた経緯があります。
実用新案権の保護対象
特許との大きな違いは、保護の対象となる技術分野の限定です。
項目 | 特許 | 実用新案 |
対象 | あらゆる発明(物、方法、プログラム等) | 物品の形状・構造・組合せに限る |
保護対象の例 | 化学物質、医薬品、ビジネスモデル、アルゴリズム、IoTシステムなど | 工具、家具、電子部品の配置、構造など「物に関する構造的な工夫」 |
このように、実用新案では「方法・手順・ソフトウェア」は保護対象外となっており、現代のデジタル製品やサービスには対応しきれないという致命的な制限があります。
登録要件と制度の特徴
【登録要件】
実用新案権を取得するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 産業上利用可能性:工業的に利用できること
- 新規性:国内外で未公知であること
- 進歩性(一定の工夫があること)
- 物品に関するものであること
【制度の特徴】
- 審査なしで登録される(無審査登録制度)
→ 登録までが早く、コストも比較的安価。 - 出願から登録までの期間が短い
→ 早ければ出願から2〜3か月で登録されます(特許は通常1〜2年)。 - 存続期間は最大10年(2022年4月以降の出願から)
→ 旧制度では6年→10年に延長されていますが、特許の20年に比べると依然として短いです。 - 技術評価書が必要(実質的な保護は評価書次第)
→ 登録だけではなく、第三者への行使にあたっては別途技術評価書の取得(有料)が必須です。
歴史的背景と制度の限界
実用新案制度は、もともと明治時代(1905年)にドイツの制度を模範として導入されたものです。当時は、大量生産時代における現場発の小さな工夫や改善を保護することが目的でした。
1970〜1990年代には、特許庁への出願数のうち実用新案が占める割合も高く、企業の「社内改善活動」と親和性が高い制度とされてきました。
しかし現在は次のような変化により、制度の存在意義が薄れつつあります。
- 技術のソフトウェア化・サービス化(物品だけでは不十分)
- 模倣のスピード・手段の多様化
- 国際的な知財戦略の重要性の高まり
- 特許審査の迅速化(特許でも早期に対応可能)
これらの要因により、「早く・安く」権利が取れることのメリットが相対的に小さくなり、「実用新案を使う意味がある場面」がほとんど消滅したのです。
実用新案権は「権利」としての体をなしていない その制度的限界

実用新案権は法律上、確かに「独占排他的な権利」とされています。しかし、実際にはそれが「実効性のある権利」として機能することは少なく、形式的に存在しているだけの“名ばかりの権利”と言っても過言ではありません。以下にその理由を詳しく解説します。
1. 審査なしで登録される=中身が保証されていない
実用新案制度の最大の特徴は、「無審査」であることです。つまり、出願した内容が本当に新規性・進歩性を備えているのか、先行技術と比較して有効な技術なのかは、一切審査されません。そのため、登録された実用新案権の多くが無効理由を内包したまま世に出ているのです。
▼例:
他人の技術と偶然にも重複していたり、公知技術に近すぎたりしても、登録になってしまいます。例えば、どこにでもある鉛筆について(換言すれば、既に世の中にあり新規性自体がそもそもないものについて)そのまま出願したとしても登録となってしまいます。これは実質的に「中身が空っぽの権利」といえます。
2. 権利行使には「技術評価書」が必須
実用新案権は、他人に対して差止請求や損害賠償請求を行う場合、特許庁から「技術評価書」を取得しなければなりません。この評価書が、特許の審査結果のような位置づけになります。
ところが、この技術評価書に「進歩性なし」「新規性なし」などと記載された場合、その権利は裁判では機能しません。つまり、「登録された権利」でも、法的にはほとんど無効に等しい状態になるのです。また、技術評価書は、単に特許庁の一意見にすぎないという位置づけのため、「進歩性なし」「新規性なし」といった肯定的な記載があったとしても、その実用新案権が直ちに法的に有効であるということにはなりません。
3. 他人を止められない“飾り”の権利
本来の知的財産権は、模倣や侵害に対して法的措置をとるために存在します。しかし、実用新案権は技術評価書で不利な結果が出れば差止請求も賠償請求も事実上不可能です。仮にこの状態で権利行使をした場合、権利者が逆に損害賠償等の責を負いかねません。これでは実質的に「権利」とは呼べません。
しかも、実用新案を侵害していると気づいても、相手が評価書の内容を確認し、「どうせ無効になる権利だ」と判断すれば、堂々と模倣されるリスクすらあります。
4. ビジネス上の交渉材料にならない
例えば、特許権はライセンス契約や資金調達、企業価値の評価に使われます。ところが、実用新案権は内容の確からしさが担保されていないため、第三者からの信頼性が低く、交渉材料としての力が弱いのです。
企業のIR資料に「保有する実用新案件数」が載っていたとしても、それが事業優位性を保証するものとして評価されることはまずありません。
結論:実用新案権は「権利」とは呼べない制度
法律上は「権利」でも、実際には権利の三大要素(有効性・排他性・実効性)を欠いているのが実用新案権です。
- 有効性 → 審査がなく保証されていない
- 排他性 → 技術評価書が必要、実質的に弱い
- 実効性 → 行使しても裁判で通らないリスク大
このように、法的にもビジネス的にも機能しない制度を「選択肢」として残しておく意味はないでしょう。知的財産を活かして事業を守り、競争力を維持するためには、実用新案ではなく、特許や意匠など実効性ある制度を選ぶべきです。
実用新案権の代わりに取るべき対策とは?
では、実用新案権の代わりにどのような知的財産対策が現実的なのでしょうか?ここでは有効な選択肢をいくつか紹介します。
1. 特許出願を検討する
もしアイデアが発明としての要件(新規性・進歩性)を満たすのであれば、実用新案ではなく特許として出願する方が効果的です。特許は厳しい審査を通る分、模倣抑止力や市場での評価が段違いです。
2. 意匠登録を活用する
製品のデザインが独自性を持つ場合は、意匠権の取得を検討すべきです。意匠権は外観の保護に特化しており、特許よりも比較的取得しやすく、模倣対策にも有効です。
3. ノウハウの秘匿化
技術内容が模倣されにくい、あるいは社内で運用できるものであれば、あえて出願せずに企業秘密として管理する(営業秘密化)という選択肢もあります。これは知財戦略上、非常に合理的な対応です。
弁理士ができること:実用新案ではなく「最適な知財戦略」を提案

弁理士は実用新案権の代理出願も行えますが、単なる申請代行だけでなく、以下のような戦略的な支援が可能です。
1. 技術内容の適切な権利区分の判断
「これは特許か意匠か、それとも秘匿すべきか?」といった判断は非常に難しいですが、弁理士は法的知識と技術理解の両面から、最適な保護方法を選定します。
2. 将来を見据えた出願戦略の立案
特許・意匠・商標などを組み合わせた知財ポートフォリオの構築もサポートします。製品ライフサイクルを踏まえた出願タイミングの調整や、無効リスクの低い明細書作成も可能です。
3. 知財リスクの分析と回避
他社権利の侵害リスクや、既存技術との類似性についても調査し、無駄な出願や無意味な権利取得を回避します。これにより、費用対効果の高い知財活動が実現できます。
実用新案権よりも「戦略的な知財活用」を
実用新案権はかつて、簡易な知財保護制度として一定の役割を果たしてきました。しかし、技術の複雑化・知財戦略の高度化が進む現代においては、その制度的限界が明らかになりつつあります。
「アイデアを守りたい」「模倣を防ぎたい」と考えたとき、実用新案権はその目的に対して十分な効果を発揮しないケースが多いです。むしろ、特許・意匠・営業秘密の活用や、弁理士の戦略的アドバイスを受けることが効果的です。
知的財産は企業の競争力を左右する重要な資産です。だからこそ、「とりあえず実用新案」ではなく、本質的な価値を守るための知財戦略を実践していきましょう。
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